第1回 日本放射光学会高良・佐々木賞


原田 慈久 会員 (HARADA Yoshihisa)

東京大学 物性研究所

軟X線発光分光による先駆的液体科学学理の開拓とその応用展開

  原田慈久氏は、物質科学研究における軟X線発光分光の有用性にいち早く注目し、数々の先駆的な研究を行ってきた。代表的な研究として、水の電子状態解析を挙げることができる。本研究では、超純水の高分解能軟X線発光測定と、その同位体効果・温度依存性・偏光依存性などの多角的な分析によって、液体の水構造は不均一であり、主に密度が異なる2つの動的状態が存在していることを見出した。本研究成果は従来の水構造のモデルに一石を投じ、水の構造を電子状態レベルで議論する新しい研究の流れにつながっている。また、本研究を通じて開発された試料環境制御技術は広く応用展開され、溶液中の機能性高分子材料の水素結合の評価や、電池材料のその場観察研究などへと進展している。今後運用が開始される次世代放射光施設においても、中心的研究の1つとして発展することが期待される。 
  このように原田慈久氏が開拓した軟X線発光分光研究は、我が国の放射光科学の発展に大きく貢献してきた。以上により、原田慈久氏は第1回日本放射光学会高良・佐々木賞に相応しいものと認められる。

日本放射光学会
会長 横山利彦

2023年 1月